2020/02/26 00:04
「海亀と魚たち/Turtle and fish」
ペン画/Drawing date:2009.7.31 size:33.5×27.0
この作品は、屋久島の海を表したものです。毎日ではないものの、仕事などの合間を見付けては、コツコツと描き進めた作品で、描き始めから完成まで、実に7か月の期間を要しました。海亀の周りに配した魚達のディテールに凝り過ぎて、作画が一向にはかどらず、気が付くと半年以上の時を費やしていたのです。
そのような僕の姿と、徐々に描き込まれる絵を見て、友人たちは「頭がどうかしている・・・。」と心配しつつ、その一方ではあきれていました。その指摘に関しては、僕自身も同感です。 僕は魚を見ることも、釣ることも、食べることも大好きです。そして、描くことも好きなので、様々な魚が一同に集うとなると、ついつい力が入ってしまうんですよね。
この魚たち、サイズが小さなポストカードでは、各魚種の特徴や違いを見出し難いかも知れません。そもそも、僕の描く魚たちは、各々の特徴を表しているつもりながらも、相当にディフォルメされています。もしかすると、元の魚の姿とは、別種のような印象を受けるかも知れません。しかしながら、A4版のプリントや原画を見た方たちの中には、それぞれの魚種を言い当てる方がおり、その見識には本当に驚かされます。どうやら、そのような博識あるいはマニアックと自負される方々には、それぞれの魚の姿を楽しんで頂いているようです。それは、作者としても、非常なる幸いです。
一方、描いた僕自身は、随分と作画に苦しみました。小説家は、書き出しの1文に苦心すると聞きますが、絵の場合も、時に同じような現象が生じます。スタートさえ切ってしまえば、自然と流動的になるパターンが多いものの、描き始めの際には、しばらくの間、無駄に力みながら、白紙を睨みつけていたりします。最初に何を描くのかを、迷ったり悩んだり考え込んだりして、変に苦労することがあるんですよね。
この絵の場合は、先ず海亀を描き始める前に時間を要し、その後の魚を描く段階で、またもや考え込みました。どんな魚をどんな風に描くかを散々悩んだ挙句、海亀の右後肢付近に、オヤビッチャという小さな魚を描いた次第です。
オヤビッチャは、水族館ではおなじみの、縞模様が美しいスズメダイ科の魚で、屋久島ではヘキと呼ばれ、食用魚として人気があります。食べる際には硬い骨が口にうるさく、成長しても20㎝ほどと、サイズ的にみても決して大きくありません。しかし、白身の肉には旨味があり、塩焼きなどで大変に美味です。小さなものは、背越し(せごし=中骨ごと薄い輪切りにする)の刺身か、唐揚げが良いでしょうね。
屋久島では夏が旬とされ、真夏の沿岸で、菅笠をかぶってこの魚を狙う、年配の釣り師の姿をよく見掛けます。灼熱の中での釣りは大変な作業であり、心身ともに疲労困憊するのみならず、熱中症の危険性も大いに懸念されます。しかしながら、幼少よりこの魚と漁法に親しんだ島人は、当然のごとく真夏の炎天下の磯に乗ります。その忍耐強さと信念の力には、ひたすら敬服するしかありません。この光景は、屋久島の夏の風物であると言えるでしょう。
いずれにせよ、僕は最初に2匹のオヤビッチャを描きました。そして、その次の魚を描くにも、再び悩むことになります。あれこれ考えあぐねた挙句に手を着けたのが、紙面左上方の角に配したミノカサゴです。この魚は、僕のお気に入りの1つで、屋久島の海では頻繁に・・・。
それぞれの魚の説明を始めるとキリがないので、この辺でお終いにしておきます。
※オヤビッチャのシガテラ中毒例
本種を食べてシガテラ中毒(温暖な海洋のプランクトンが生産する毒素に汚染された魚介類の摂取による食中毒)になった例があるとの記述があります(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:オヤビッチャの項目/2020.2.17現在)。真偽のほどは定かではありませんが、それが事実ならば食材として注意を要します。